焚き木がはぜる音がする。

赤い光に照らされる洞穴の岩肌、暖かな火をともす組まれた薪、その向こうで、
小さな寝息を立てている、自分の分身をみると、何か、うなされているような様子だった。

王都エルンザルドが竜族の手に落ちて、次の町に向かう間、
ルーザークが安らかに眠っていたことはほとんどない。
少なくとも、黒矢が見た限りはそうだった。

王都から降りてすぐのころは、
黒矢が臥せっている時間のほうが長かったので、その間のことはわからないが、
多分、その間も、こうしてうなされていたのではないかと思う。
そうなる材料など、いくらでもあった。

竜族に屠られていった多くの兵士の断末魔、そして、自分が葬った竜族の断末魔…
殺戮と殺戮とが競うようにして折り重なる、戦と言う名の魔物、その場の狂気は、時間が経つほどに、
自分を蝕んでいっているように思う。それは、きっと、この無垢なる王子だとて、おなじことなのだろう。

もっとも、この王子が気に病んでいることは、責任とか、義務とか、出自の問題とか、
黒矢が抱えているものよりもはるかに重いものを含んで、
その心を押しつぶすようにしているだろうことも、黒矢にはわかっていた。

わかっているけれども、それを感じることはできなかった。

「…」

小さなうめき声が聞こえた。
辛い夢でも見ているのだろうか。
寝顔は、黒矢の位置からはうかがうことができない。
ぱらぱらと、雫の降る音がして、黒矢は洞穴の入り口に目を向けた。

入り口には、組まれ、編みこまれた木の枝が折り重なって、自分たちの所在を隠している。
その緑の扉に、雨が当たっているのがわかった。
しばらくすると、緑と水の匂いが交じり合って、
焚き木の香りも含んで身元に届き、黒矢の鼻腔をくすぐった。
いい匂いだと、思った。
ルーザークは、相変わらずうなされている。

黒矢は、雨の匂いが好きだった。
硬い岩肌は、横たわったところで、体を労わってはくれない.。
麻のマントは、毛布のように暖かくもなければ、絹のように滑らかでもない。
押すだけで明かりをともす電灯もなければ、物寂しいとき、都合よく音を立ててくれる機械もない、
腹が満たされないときは、干し肉を、口の中で何度も咀嚼してやり過ごすしかない。

だけれども、

だけれども、黒矢は、この生活が好きになりかけていた。

焚き木の向こうで、小さな背中が身じろぎする。
華奢な体に、重すぎる荷物のように押し込められた責務。
それが、他人の娯楽のために課せられたものであることを、黒矢は知っている。
哀れだと、思う。

そうやって、この王子が悩んで、苦しむことを、楽しんでいる人間がいることを、知っている。

だから、その痛みを感じることができないのだろうか?





LUWON 02